東京地方裁判所 昭和56年(特わ)57号 判決 1981年9月24日
本店所在地
東京都豊島区南池袋一丁目二三番六号
島倉商事株式会社
(右代表者代表取締役島倉正治)
本籍
千葉県市川市市川三丁目三八番地
住居
同県同市市川三丁目三四番一一号
会社役員
島倉正治
大正二年八月二七日生
右島倉商事株式会社に対する法人税法違反及び島倉正治に対する法人税法違反、所得税法違反の各被告事件について、当裁判所は、検察官山崎基宏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人島倉商事株式会社を罰金一三〇〇万円に
被告人島倉正治を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に
それぞれ処する。
被告人島倉正治においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人島倉商事株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都豊島区南池袋一丁目二三番六号に本店を置き、キャバレー・大衆酒場の経営等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人島倉正治は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人島倉正治は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和五三年五月一日から同五四年四月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億五六五七万八一八八円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年六月二九日、同都同区西池袋三丁目三三番二二号所在の所轄豊島税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三七二六万三六八九円でこれに対する法人税額が一三八〇万〇二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第六六八号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六一五二万〇四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告税額との差額四七七二万〇二〇〇円を免れ
第二 被告人島倉正治は、同都同区南池袋一丁目二三番一〇号等において、飲食店及び個室付浴場等を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
一 昭和五二年分の実際総所得金額が二億三二三一万二一二四円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五三年三月一〇日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、同五二年分の総所得金額が七四三八万三九〇七円でこれに対する所得税額が源泉徴収税額六七万三四四〇円を控除すると四〇六九万二六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億五八八二万四八〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)と右申告税額との差額一億一八一三万二二〇〇円を免れ
二 昭和五三年分の実際総所得金額が二億一六二三万五三一五円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年三月一四日、前記豊島税務署において、同税務署長に対し、同五三年分の総所得金額が五二三二万七九〇五円でこれに対する所得税額が源泉徴収税額九〇万二八〇〇円を控除すると二五四五万六七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(前同号の3)を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億四六四七万一一〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)と右申告税額との差額一億二一〇一万四四〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告人島倉の当公判延における供述
一 島倉俊彦(二通)、菅原陽太郎(二通)及び岡芹初江の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の減価償却資産関係調査書
一 東京法務局板橋出張所登記官作成の登記簿謄本
判示第一の事実につき
一 収税官吏作成の54年4月期売上、54年4月期仕入、54年4月期簿外仕入、(株)小林商店簿外取引、(株)升本簿外取引、54年4月期仕入決算調整、54年4月期簿外雑給(大入袋)、54年4月期北海3号店簿外大入袋、減価償却費勘定、雑損失及び法人事業税に関する各調査書各一通
一 押収してある法人税確定申告書一袋(昭和五六年押第六六八号の1)
判示第二の各事実につき
一 小川作之助の検察官に対する供述調書
一 収税官吏作成の52年分売上、昭和52年1月トルコ東京売上、53年分売上、昭和53年分仕入、租税公課(52年分)、租税公課(53年分)、水道光熱費(52年分)、水道光熱費(53年分)、広告宣伝費(52年分)、広告宣伝費(53年分)、修繕費(52年分)、修繕費(53年分)、消耗品費(52年分)、消耗品費(53年分)、トルコ東京簿外タオル、給料賃金(52年分)、53年分簿外雑給(大入袋)、53年分北海別館簿外大入袋、53年分トルコ東京簿外大入袋、利子割引料、52年分簿外雑給(大入袋)、52年分トルコ東京簿外大入袋、衛生費(53年分)、雑費(52年分)、専従者給与、青色申告控除、事業専従者控除及び利子所得に関する各調査書各一通
一 豊島税務署長作成の証明書
一 押収してある52年分の所得税の確定申告書等一袋(昭和五六年押第六六八号の2)、53年分の所得税の確定申告書等一袋(前同号の3)、52年分所得税青色申告決算書一袋(前同号の4)及び53年分所得税青色申告決算書(前同号の5)
(法令の適用)
被告人島倉の判示第一の所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、判示第二の一及び二の各所為は、いずれも行為時においては前記昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが、右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから、刑法六条、一〇条によりいずれについても軽い行為時法の刑によることとし、判示第一の罪については所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の一及び二の各罪についてはいずれも所定の懲役と罰金を併科し、かつ、各罪につき情状により所得税法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人島倉を懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人島倉を労役場に留置することとする。
さらに、被告人島倉の判示第一の所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、前記改正前の法人税法一六四条一項により判示第一の罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社を罰金一三〇〇万円に処することとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人島倉が代表取締役をしているキャバレー・大衆酒場の経営等を目的とする被告会社の業務に関し、四七〇〇万円余りの法人税を、個人の経営する飲食店・個室付浴場等の経営から得た所得について二年度にわたり合計二億四〇〇〇万円近くの所得税をそれぞれ免れたという事案である。
被告人島倉は、本籍地の尋常高等小学校を卒業し、家業の農業の手伝いをした後上京し、食堂・各種製造工場・理髪店の経営、食料品のブローカーなどを経て、昭和四〇年ころからバーを経営し順次店数を増やすほかトルコ風呂の経営も始め、これを個人事業として行なう一方、被告会社を設立した昭和四七年一二月以降開店したものについては、原則として被告会社の事業として行なっていたもので、昭和五四年当時で炉ばた焼やパブ等の店を個人、法人それぞれ各一〇店前後経営し、これら個人・法人経営の店は「島倉グループ」と総称されており、その現金出納や経理については、個人・法人併せて被告会社で処理されていたものである。
ところで、被告人島倉は、本件脱税の動機として、個人の上京五〇周年を記念して右島倉グループの本社社屋を建築すること、景気変動や老後に対する備えなどを供述するがこれらの事情は、特段に斟酌すべきものとも思われない。また、犯行の態様は、専務取締役である女婿などから毎朝各店の前日の売上の報告を集計メモに基づいて受け、あるいは日計表等により売上状況の詳細を把握したうえで、各店について金額を指示して売上除外を次男の副社長などに命じ、除外分についての売上伝票の破棄、日計表の書き換えをさせたほか、法人税の確定申告に際しては、決算にあたって売上除外が多すぎたため利益がでないことになってしまったことから、右専務取締役に前年度の所得の数字を踏まえて適当な所得が出るように指示するなどしている。また、所得税についても、右にもみられるような被告人島倉の態度などが影響して乱雑な税務処理を招きほ脱金額を増大させる事態をもたらしている。被告人島倉は、このようにして算出された所得金額を確認したうえで判示の各申告に及んでおり、犯行は計画的かつ巧妙で悪質といわざるを得ない。さらに、免れた税額は、法人税・所得税を合計すると二億八六〇〇万円余り(ほ脱所得の合計は四億四〇〇〇万円余り)と極めて高額であり、ほ脱率もいずれも七〇パーセントを越えていること、昭和五〇年以前から脱税していて納税意識の稀薄さが窺えることなどの事情も併わせ考えると、特に被告人島倉の所為は、税負担の公平を著しく損なう反社会性の強いものであって犯情は重いといわざるを得ない。
以上の諸点にかんがみれば、ほ脱金額の中には、被告人島倉の責任を阻却するものではないものの、直接にはずさんな経理処理に基づくものなどが含まれていること、犯行後各年度について修正申告し、納めるべき税金についてもその大半を既に納付していること、法人組織への移行を含め、経理体制についても改善を図らんとしていること、被告人島倉には、これまで風俗営業等取締法違反で四回罰金に処せられたほかには前科・前歴がないこと、同被告人の年令・健康状態・善行等本件に顕われた同被告人に有利なすべての事情を考慮しても、被告人島倉に対しては懲役刑についても実刑に処するのは止むを得ないところであって、なお、罰金刑についてはこれを勘案して主文掲記の程度にとどめることとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)
別紙(一)
修正損益計算書
島倉商事株式会社
自 昭和53年5月1日
至 昭和54年4月30日
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
島倉正治
自 昭和52年1月1日
至 昭和52年12月31日
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
島倉正治
自 昭和53年1月1日
至 昭和53年12月31日
<省略>
修正損益計算書
島倉正治
自 昭和53年1月1日
至 昭和53年12月31日
<省略>
別紙(四)
税額計算書
島倉商事株式会社
54年4月期
<省略>
別紙(五)
税額計算書
島倉正治
<省略>